私はもともと、酒に強い体質ではありませんでした。
それでも社会に出るとき、「酒を飲むのも仕事のうち」と思い込み、飲みの席には最後まで付き合うつもりでサラリーマンとしての一歩を踏み出しました。
父もまた、大の酒飲みでした。小学生の頃から、酔っぱらって帰宅する父の姿を何度も見てきました。タバコと酒の混じった臭い、ヘロヘロになりながら上機嫌で風呂も入らずにすぐ寝てしまう。でも翌朝にはきちんと早起きし、新聞に目を通してから出社する姿は、子どもながらに「働く大人ってこういうものなのか」と思わせるものでした。
たまにあまりにしんどそうで、仮病を使って会社を休む父を見ると、「ちょっとやりすぎだろ」と思った反面、「それだけ仕事って大変なんだ」と心に刻まれた記憶があります。
そんな影響もあってか、社会に出て配属初日から飲み会に参加し、ぎこちない手つきで焼酎の水割りを作りました。先輩に連れられて初めてスナックにも行きました。ネクタイを頭に巻いて陽気にはしゃぐ支店長の姿が、妙に印象に残っています。
それからというもの、飲み会は日常の一部になりました。酒の勢いを借りて自分の意見をぶつけてうまくいったこともあれば、逆に感情的になって口論になり、空気を悪くしてしまったこともあります。それでも、同僚と夜を明かしながら語り合い、いまでも連絡を取り合う一生ものの友人ができたのも、酒の席でした。お酒には、それなりに感謝している部分もあります。
30代に入ると、出張で全国を飛び回る日々が始まりました。ご当地の日本酒や肴を楽しむのが密かな楽しみである一方、仕事のプレッシャーや人間関係のストレスも徐々に積もっていきました。30代後半には、とうとう初めて記憶を飛ばし、怪我をした夜もありました。
40代に入ると、ストレスの蓄積はピークを迎えました。頑張って付き合ってきた飲み会が、急にばかばかしく思えてきました。そんな頃、家族から「少し控えたら?」と言われることが増えました。健康への不安も重なり、子どもの進学費用も現実味を帯びてくる中で、「このままでいいのか?」という思いが強くなっていきました。
そうして、私は断酒を決意しました。無理して飲むことをやめ、しっかり自分に向き合おうと思えました。間違いなく、家族のおかげです。